なんだってこんなにも可愛らしいのに、それでいて愚かなんだろう。

テーブルを隔てて目の前に座っている女の子を眺めながら、
頭の片隅でぼんやりとそう思った。

「相談があるんです」
そう言われたのは、おそらく女子が片手で数えられるほど少ない中で
自分が一番、年が近いせいだったんだろう、とそう推測する。

ずっとうつむき加減でポツポツと語るその姿に、過去の自分を重ね合わせる。
そういえばもう10年も昔のことなんだ。

あの頃の自分は、大人になったと思い込んで、でもまだまだ子供で。
抱えきれないほどの淋しさとか孤独感とか、
とにかく独りではいられないほどのいろんなものを抱え込んで。
それを紛らわすために、沢山の人を傷つけて、
そうして振り回していたと、今でこそ冷静に判断できる。
10メートル位の穴を掘って埋まりたいくらいに。

だから、あの頃の自分を知っている人には逢いたくないし
それ以前にどんな顔して逢ったらいいのかも分からないから
きれいにラッピングして記憶の奥底にしまいこんで、
なんともないような顔をして、少しも穢れていない振りをして今を生きている。

ほんの少しだけ、分かるような気がするのだ。

恋の大部分は錯覚とか幻とか幻想とか、そんな儚いもので形成されている。

でも彼女と自分は違う。
周囲を巻き込んで傷つけて、それでも大して私は傷つかなかった。
(たぶんその時点では、おそらく)
だけれどもこの彼女は、自分を傷つけなくてはならない、
そんな抜き差しならないところまでその男に追い詰められてしまった。

もっと早く忠告することもできたのかもしれない。

まだまだ先は長いのだから、そんな男とはさっさと別れればいいのに。
いつか10年くらい先になって、ふと思い返した時に
死にたくなるくらい思い出したくない思い出に変わる前に。

軽々しく口に出せるうちは思考が冷静じゃないんだと、そう思う。
自分もそうだったから。
後で、もっともっとずっとずっと後で
なんだってこんなにも愚かだったんだろう、と
また死にたくなるくらい
それこそ今度こそ誰にも言えなくなるくらい
無かったことにしたくなる、そんなこともあるのに。


誰それが傷つけたとか、誰に傷つけられたとか
そんなふうに言えるうちはまだいい。
自分を傷つけられるのは自分だけなのに。
自分を救えるのは自分だけなのに。

あと10年くらいしたらいつか分かってくれる?

ねぇ?