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祈りは、叫びにも似ていた

彼にクリスマスプレゼントを買おうと、一人で街中に出てきたのは失敗だった。
一緒にくればよかったんだ。
アーケード内に流れるクリスマスソング、赤と緑のディスプレイ。
行きかう人はカップルか家族連ればかり。
私だけ、独り。
厳密には独りではないけど、独りになると
思い出さなくていいことまで思い出すからいやだ。

キミトに告白されたのは、、17か18のクリスマスイブだった。
その日、私はバイトで、終わって外に出たらキミトがそこにいて、
お茶してなんでもない話をして、「プレゼント」って小さな包みをくれた。
「もらう義理もないよ?」と言ったら、「付き合って欲しい」と言ってくれた。
嬉しかった?
疑問だ。
今まで好きだ、と思ってきた人は、ほんとうに好きだったのか?
改めて振り返っても、やっぱり分からない。

大学を卒業して進路が別々になったキミトとは、半年もたずに終わった。
好きでも繋がっていられないのは、途方もなくさみしかった。
物理的な距離。
後からキミトは、仕事をしてどんどん大人になっていく自分を見て、
何だか淋しかったと語ってくれた。
自分では何ら変わったつもりはなかったから、
キミトがそう言うのに驚いた覚えがある。
彼は彼なりに淋しさを抱えていた。

そのとき、他の人が好きだと思ったのは、きっと一番そばにいてくれたからだ。
キミトのそばに変わらずいれば、一番好きだと思っただろう。
それでもそうしなかったのは、私の我侭なんだろう。
終わったはずなのに、その後約3年の間、友達以上恋人未満みたいな状態が続いた。
クラス会で逢ったのが最後で、先に帰る私を駅まで送ると言って
駅までの道を手をつないで歩いた。

あのとき、やりなおしていれば、今になってこんな思いをしなくてすんだのかもしれない。

キミトが結婚して、私も結婚して、それでもわりきれない何かを
引きずっている。
今でも。
ほんとうに好きだった?と自問自答しながら、
薄れた気持ちがなにかの拍子にぶり返して、彼の名を呟いてしまう。
消化しきれない思い、納得できない何か。
何もないふりをする自分。

過去の始まりを現在の始まりで上書きしたけど、
それですべてが綺麗にははならなかった。
これからもこの季節が来たら始まりを思い出して、
終わったことを悔やんで、それを繰り返しながら生きていくんだろう。
祈るように、叫ぶように、彼の名を呟いて

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